ヤマタチバナ

ヤマタチバナ(やぶこうじ)

この雪の
消残る時に
いざ行かな
山橘の
実の照るも見む

このゆきの
けのこるときに
いざゆかな
やまたちばなの
みのてるもみむ

雪の降った日に作った歌一首とあります。

この雪の消えてしまわない内にさあー行こう。
山橘の実の輝くさまを見よう。

大伴宿禰家持作
巻19ー4226

やぶこうじは昔から縁起物に用いられ、その実の美しさから、今もお正月の飾りものにされています。

お陰様で11月で78歳になりました。

誕生月の11月は我が家の梅の木の下で、小さい鉢物のやぶこうじが、可愛い実を付けてくれました。

平成27年も残りわずかとなりました。

申歳を迎える我が家の庭も、南天や万両の赤い実が競いあって輝いています。

新しき
年の初めの
初春の
今日降る雪の
いや重け吉事(いやしけよごと)

万葉集ー大伴家持

ひつじ歳のうたあそびとして綴った「万葉集と草花」はこれでおしまいです。

皆様どうぞ良いお年をお迎え下さいませ。

イチョウ

イチョウ

ちちの実の
父の命
柞葉(ははそば)の
母の命
おほろかに
情尽くして
思ふらむ

ちちのみの
ちちのみこと
ははそばの
ははのみこと
おほろかに
こころつくして
おもふらむ

大伴家持
巻19ー4164

題名に「勇士(ますらを)の名を振るはむことを
慕(ねが)へる歌」とあって、天皇から課された職責を立派に果たそうと思う決意が詠みこまれた長歌の一節とあります。

万葉集でちちが詠みこまれているのは二首のみで、何れも大伴家持の長歌と言われています。

ちちは現在のイチョウであるとする説が有力と言われています。

写真は柳川の池のほとりのイチョウです。

川面に浮かぶ木の葉の美しさに見惚れました。

ヤマハぜ

ヤマハぜ

ひさかたの
天の戸開き
櫨弓(はじゆみ)を
手握り(たにぎり)持たし
大夫(ますらを)の伴

ひさかたの
あまのとひらき
はじゆみを
たにぎりもたし
ますらをのとも

大伴家持
巻20ー4465

高千穂の峰に降りたった皇祖以来の代々の天皇に、大伴家は忠誠を尽くして仕えてきた。
この由緒ある大伴の名を汚すことがないように勤めよと、一族に向けて詠んだ歌の一節。

万葉の時代に櫨と呼ばれていたのは現代名のヤマハゼで、元々日本に自生していた植物で、弓を作る材料だった様です。

築後路の晩秋はヤマハぜの美しい処ですが、天候の加減で櫨紅葉が見られませんでした。

近くの竹林の中の小さなヤマハゼです。

サネカズラ

サネカズラ「さな葛」

あしひきの
山さな葛
もみつまで
妹に逢はずや
わが恋ひ居らむ

あしひきの
やまさなかづら
もみつまで
いもにあはずや
わがこひをらむ

作者不明
巻10ー2296

山のさな葛が赤く色づくまでも、あの娘に逢わずに、私は恋し続けるのだろうか。

さな葛は現在サネカズラと呼ばれ、万葉集には9首詠まれ、[逢う]にかかる枕詞に用いられているそうです。

山の中で暮らしていると、身近に色々な植物たちと出逢い楽しく学べます。

万葉集の歌と植物達が好きになりました。

イロハカエデ

イロハカエデ

わが屋戸に
黄変つ鶏冠木
見るごとに
妹を懸けつつ
恋ひぬ日は無し

わがやどに
もみつかへるで
みるごとに
いもをかけつつ
こひぬひはなし

私の家で黄色に色づいた鶏冠木を見るたびに、あなたのことを心にかけて恋しく思わない日は一日もありません。

田村大嬢
巻8ー1623

久留米石橋文化センターの日本庭園です。

シキミ

シキミ

奥山の
しきみが花の
名の如や
しくしく君に
恋ひわたりなむ

奥山に
生えているシキミの花の
そのシキミという名のように
私はこれからしきりに
貴方を恋しく思っていきます。

兵部大丞大原真人今城(ひようぶだいじよう、おおはらまひといまき)
巻20ー4476

シキミは葉に香気があって、古くから仏前に供える花とされています。

我が家の土手に、亡き夫が植えていたシキミです。

13日は夫の命日、新たに仏前へ供えました。

ヌバタマ

ヌバタマ

居明して
君をば待たむ
ぬばたまの
吾が黒髪に
霜は降るとも

いあかして
きみをばまたむ
ぬばたまの
あがくろかみに
しもはおるとも

夜が明けるまで霜が降りても、寝ないで貴方が来るのを、座って待っていました。

巻2ー89、作者不詳

ヌバタマは秋の黒い実を指し、花はヒオウギと呼んでいました。

ヌバは黒色を表す最も古い言葉で、奴婆玉(ぬばたま)の黒い実を、黒い、暗い、夜などの枕詞に用いた歌が主だそうです。

ご近所の奥さんが、ヌバタマを持って来て下さいました。花はヒオウギと呼んでいましたが、実は知りませんでした。 早速玄関床に飾り、楽しんで學びました。

イヌタデ

イヌタデ

わが屋戸の
穂蓼古幹採み生し
実になるまでに
君をし待たむ

わがやどの
ほたでふるからつみおほし
みになるまでに
きみをしまたむ

作者不明
巻11ー2759

わが家に生えている蓼の、古い茎についている種子をまいて、またそれが実を結ぶまででも、あなたを待ち続けますよ。

昔は子供の遊びに人気のイヌタデ(赤まんま)でした。

今でも、道端や草地に広く生育しています。

どんぐりの木の下で写真を撮りました。

クヌギ

クヌギ

紅は
移ろふものそ
橡(つるばみ)の
馴れにし衣に
なほ及かめやも

くれないは
うつろふものそ
つるばみの
なれにしきぬに
なほしかめやも

大伴家持
巻18ー4109

紅色に染めた美しい衣は色あせるものだ。
橡で染めてある着なれた衣に及ぶものではないぞ。

紅は遊女を、橡(つるばみ)は妻をたとえたもので、
馴れ親しんだ妻を大切にするよう諭す歌です。

近所の堤の辺りに、大きなクヌギが有ります。

道端に落ちていたどんぐりを並べてみました。

キキョウ

キキョウ

秋の七草には、
萩の花、尾花、葛花、撫子の花、女郎花、又藤袴、朝貌の花(キキョウ)とあります。

朝貌は
朝露負ひて
咲くといへど
夕影にこそ
咲きまさりけれ

朝貌(あさがお)の花は
朝露にぬれて
咲くというけれども、
夕日を浴びて咲く姿こそ
一層美しいものですよ。

作者不明
巻10ー2104

朝貌(キキョウ)は万葉集に五首詠まれているそうです。

今では、数少ない貴重な花となっています。

桔梗は6月頃から咲き、秋の七草に数えらるのが合わない感じですが、その後も咲き続けて秋まで長く花を楽しむことが出来ます。

今でも月刊「致知」の読書会の一つである久留米木鶏クラブに参加しています。 メンバーの花屋さんから贈って頂いたキキョウです。

朝に夕に、桔梗の花に語りかけては楽しんでいます。