現役時代は保育園で、
二歳児相手にお茶ごっこをいたしました。
五人ずつの席入りから始めて、
まずゆっくり子ども達へ話をします。
大事な事は、一回だけお話ししますよ。
よく聴いてくださいね。
両方のお耳でよく聴いて、
二つのお目目でよく見て、たしかめて、
頭でよく考えて、ゆっくり、お部屋へ入りますよ。敷居は、お父さんの頭、縁は、お母さんの頭。
お父さんの頭とお母さんの頭のしきいとへりを踏まないで、
ゆっくり転ばないように、お入りなさい。
話して始めにして見せて、扇を膝前に置き、深く一礼します。
どうぞお入りください。
と云って、一人一人に無言で手を添えて一緒にします。
静寂の中で、
子ども達が一人一人集中して、真剣に取り組み、
敷居と縁を一人も踏みませんでした。
茶碗は、京都楽焼の松楽さんが、
子供達へ造ってくださった茶碗を使いました。
子供達の仕草に、
私の心の中まで見透かされた想いで、
鳥肌が立ち涙が流れました。
全身全霊で受け止める子ども達の偉大さに
畏敬の念を覚えました。
無限の可能性をもつ子ども達を
如何に育て上げるかが私の課題でした。
人の心のこもったものを感じ取る感性の鋭さと、
感情の豊さには何時も脱帽でした。