幼い時期に本当に質の高いものに触れる事が
五十年後、六十年後になって人生を豊かにしてくれる。
その豊かさは、
子孫へ語り継がれることになるでしょう。
子どもは、大人以上に身体が柔らかく、
感性や感情も豊かで吸収力も旺盛です。
身体感覚が優れているので、
ことばのリズムやテンポも楽しんで喜びます。
この大切な時期を活かしたい。
それが、現役時代の私の想いでした。
この時期に日本の四季折々の歌や、諺、
自然を詠んだ一茶俳句や、蕪村、芭蕉の俳句、
宮沢賢治の詩「雨ニモマケズ」、高村光太郎の「道程」、
萩原朔太郎の「竹」、福沢諭吉の「ひびのおしえ」等を教えると、
子供たちは喜んで、自信をもって遊びの中でも学んだ言葉を発します。
子供達と一緒に暗誦して、
手に取って一筆ずつ福沢諭吉の名文を書いていくうちに、
教師と子どもとの魂が伝わり合い、教化されて行くのを感じました。
暗誦した言葉を、自然と遊びの中で、
発し続ける子どもたちの感性は大人以上のもので、
その素晴らしさには多いに触発されました。
毎日、五歳児に僅か数分間ずつでも繰り返し教えていると、
四歳児や三歳児も、自然に興味が浸透します。
何時の間にか、最高の日本語が、
子供たちの生涯失われない宝として身についてゆく。
そんな過程を目にしました。
生涯に亘って意味を発し続ける日本古来の豊かな文化。
幼少期に身体全体で学んで欲しい。
日本人として、そう願いました。