九月の薄茶器

旧暦、九月(長月)は秋の夜長の月です。

薄茶器は、尾花に鶉(うずら)です。

透塗(すかしぬり)の平棗(ひらなつめ)です。

溜め色の平棗には尾花(おばな)が黒漆(くろうるし)で描かれ、秋の夜の澄み渡った空に月が出ているように見えます。

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溜め色(ためいろ)とは、小豆色のことだそうです。

地には金蒔絵の二羽のうずらと小さな草花が、月の光を受けたように照らし出されています。

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秋の夜の侘びた風情が伝わってくる棗です。

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虫の音を聴きながら、九月の薄茶器を片付ける前に、栗の渋皮煮で一服しました。

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夕暮れ空と八月の茶器「萩に雁」

八月の茶器は、紅溜塗(べにためぬり)の「萩に雁」の八角茶器です。

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旧暦八月は、葉月(はづき)萩月(はぎづき)雁来月(かりくるづき)、紅染月(べにぞめづき)とも言われています。
新暦では、ほぼ九月上旬から十月上旬までを指します。

八月の茶器の甲には大きく羽根をひろげた二羽の雁が羽ばたいています。
正面は秋の野の代表的な花である萩が描かれています。
芒(すすき)の穂も朱く染まっています。

八月五日に、紅く染まった夕暮れを見ました。

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紅溜塗の八角茶器に現された紅染月の「萩に雁」が、夕暮れ空と重なって見えました。

猛暑続きだった今年は、池の畔のススキも早くからそよいでいました。

美しい幻想的な夕暮れを観ながら、

「この瞬間を子ども達にも是非見て欲しい。」

と思い、写真に納めました。

七月の茶器

七月の薄茶器は、女郎花(おみなえし)に鵲(かささぎ)です。

藤原定家「詠花鳥倭歌(えいかちょうわか)」による本歌から、

女郎花、

秋ならで、
誰もあひみぬ
女郎花
契りやおきし
星合の空

鵲、

長き夜に
はねを並ぶる
契とて
秋まちわたる
鵲のはし

花と鳥を詠んだ茶器です。

小倉百人一首の撰者として名高い藤原定家。
定家の「拾遺愚草」にある「詠花鳥倭歌」の二十四首のものだそうです。

古今の和歌に造詣の深かった井伊宗観が
十二月茶器の図柄を用いて、和歌の花鳥画を現したものとされています。

潤朱塗(うるみ、しゅぬり)の下張棗(したばりなつめ)です。

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六月の薄茶器

六月の薄茶器は撫子(なでしこ)に鵜飼(うかい)の絵です。
塗りは摺(すり)漆塗。
形は金輪寺(きんりんじ)です。

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旧暦六月は「水無月」とも呼ばれ、夏の終りとも言われています。
鵜飼は華やかで、また、ものさびしい夏の風物詩でもあります。
塗の金輪寺の甲の中央に篝火が灯され、左手に芦の中から鵜舟が金蒔絵で描かれています。
右手には、やがて秋の訪れをつげる撫子がひっそり咲いています。
篝火(かがりび)に照らされた川面は溜色(ためいろ)に輝き、二羽の鵜が
黒漆で浮いています。

金輪寺(きんりんじ)は小形の経筒として作られたもので、後に茶器に転用されたと言われています。

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旧暦五月は橘月

旧暦五月は橘月(たちばなづき)と言うそうです。

「橘は実さえ、花さえ、その葉さえ」

とその優雅さを詠まれてます。

写真の棗(なつめ)には、
岸辺に茂った橘と、水辺に咲く菖蒲の花と
水鶏(くいな)が描かれています。

棗の形は白粉解(おしろいどき)です。

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