熟し柿、てんまん。

晩秋の山野は日増しに紅葉し、
木漏れ日の射す中を散策すれば、
生命の休養となる気がします。

熟し柿、てんまんには
戦後、物資の無い時代の想い出があります。

母の里に疎開していた頃、
田舎屋の周囲に実るてんまんを見上げては、
前夜からその下に、五右衛門風呂で炊いた藁灰の
入った箱を持ち出して、落ちるのを待っていました。

毎朝、熟し柿を見上げては箱を動かし、
学校から帰ると、箱の中にポトンと落ちたてんまんを
灰の中から取り出しては美味しく喰べた想い出が甦ります。

お歯黒だった祖母は、疎開して来ていた孫達の為に、
男の子には角立て草履、女の子には紅い鼻緒の編込みの草履を
一人一人の子供の足に合わせて作って履かせてくれました。

戦後の物資の乏しい時代に、
母の里の疎開先で孫達を大事にしてくれた祖母との
古の想い出が、熟し柿と共に幸せな気持として甦ります。

幼い頃に人に可愛いがられて育てられた想い出は、
一生の財産であります。

75歳となった今日、祖母や母の生きた姿が、
私にも継承されているように思います。

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能楽十二曲より十月は木賊(とくさ)の茶碗

新古今集の坂上是則の歌に、

園原や
伏屋に生ふる
箒木の
ありとは見えて
逢はぬ君かな

とあるのに想を得て、
世阿弥元清が作ったという能楽「木賊(とくさ)」。

ある都の僧が、父と生き別れになった少年を連れて、
その父に逢わせようと、少年の故郷である
信濃国の園原に下ります。

木賊を刈る老人に逢ったので、
箒木(ほうきぎ)の事を尋ねると、
老人はそれに答えた後で、
僧達を我が家に伴い帰ります。

たった一人の子が行方不明になったので、
その行方を聞くこともあるのではないかと、
この往来に居所を立て、人々を泊めている。

と語り、酒を勧めて、酔狂の態で、
子供が好んだ小歌や曲舞を真似つつ泣くので、
やがて、僧が、

これがあなたの子です。

と云うと、夢ではないかと喜こんで、
その居所を寺として仏果を結ぶ 、と云う物語です。

これは、その中のうたです。

木賊刈る
山の名までも
園原や
伏屋の里も
秋ぞ来る

能仕舞を趣味とする友人の役に立てばと思い、
ブログに載せました。

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十一月、最終号の冊子は三冊です。

十一月の冊子ができました。

論語、方丈記、諺(いろは順)です。

最終号ですので、挨拶文を添えました。
(抜粋します。)

こども達の為にと思って、
一年間楽しく遊び心で、冊子作りをいたしました。

鴨長明によって書かれた随筆ー方丈記ーから、
今年はちょうど、八百年の節目と云われています。

美しい文章書かれている名作の古典文学で、
冊子作りも終了させて頂きます。

五月から、娘裕子の手助けを得て、
写真を添えて「シズカおばあちゃまのお部屋」に
記事を投稿してきました。

ようやく目標の百記事に到達致しましたので、
こちらも今年迄と致します。

この秋は茶道と百人一首に専念したいと思っております。

季節の変り目です。

皆様どうぞご自愛の上、ご精励下さいますよう、
お祈り申し上げます。

有り難うございました。

2012年10月、

久福木庵の浦にて

武田シズカ。

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百人一首と茶道

秋の茶道具にも百人一首があります。

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嵐吹く
三室の山の
もみじ葉は
龍田の川の
錦なりけり。

ー能因法師ーのういんほうしー

蒔絵の薄茶器の名前は「鳴子」、峯清作の金輪寺形です。
後醍醐天皇が、吉野の金輪寺(金峯山寺)で、
衆客に茶を賜った時に使われたのが由来とされているようです。

茶道の中にも日本の歴史と文化を感じます。
日本の良さを継承したいと思う秋です。

十月の冊子は三冊です。

先月は、10月の為に3冊の冊子をつくりました。

"2012年10月の冊子"

一冊は論語で、十月のテーマは、

われは一以って之を貫く。

2冊目は松尾芭蕉の「奥の細道」です。

3冊目は、古今和歌集と新古今和歌集、
後白河天皇の「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」、
そして、中江藤樹(なかえとうじゅ)の「父母の恩徳」です。

古今和歌集は、
紀貫之(きのつらゆき)、
在原業平(ありわらのなりひら)、
小野小町(おののこまち)、
僧正遍照(そうじょうへんじょう)、
藤原俊行(ふじわらのとしゆき)にしました。

新古今和歌集は、
後鳥羽院(ごとばいん)、
藤原俊成(ふじわらのとしなり)、
藤原定家(ふじわらのさだいえ)、
寂蓮法師(じゃくれんほうし)、
西行法師(さいぎょうほうし)、
藤原定家(ふじわらのさだいえ)を選びました。

一年間続けた小冊子も、十一号でおしまいです。
楽しく遊び、手作りを楽しませて頂きました。