萩原朔太郎の竹

光る地面に竹が生え、

青竹が生え、

地下には竹の根が生え、

根がしだいにほそらみ、

根の先より繊毛が生が生え、

かすかにけぶる繊毛が生え、

かすかにふるえ、

かたき地面に竹が生え、

地上にするどく竹が生え、

まっしぐらに竹が生え、

凍れる節々りんりんと、

青空のもとに竹が生え、

竹、竹、竹が生え。

就学前の児童の最後の想いでとして、
山登りをしていました。

登山の途中で竹林を観て、一人の子どもが、

「あ、竹!」と叫びました。

次の子どもが、「光る地面に竹が生え、」と連ね、
子供たちは次々と、萩原朔太郎の竹を、声を揃えて朗誦しました。

自然から学ぶ良い機会でした。
後年、良い思い出として役立つことを念じて、
朔太郎の竹を教えました。

高村光太郎の道程

道程

僕の前に道はない

僕の後ろに道は出来る

ああ、自然よ

父よ

僕を一人立ちにさせた広大な父よ

僕から目を離さないで守る事をせよ

常に父の気魄を僕に充たせよ

この遠い道程のため

この遠い道程のため

就学前の六歳児の子どもと一緒に、
道程の言葉を読んでいきますと、
子供たちは自然に自信を持って表現します。

又、ステージの上で集団で発表させますと、
友だち同志の声を聴き、みんなに合わせて心から表現します。

自信を持った子供たちの、魂の訴えの気魄には
胸に迫るものがありました。

子どもは社会の一人であることを教えてくれました。

付け足し言葉

子どもは言葉のリズムを楽しみます。

付け足し言葉

驚き桃の木山椒の木

あたりき車力よ車曳き

蟻が鯛なら芋虫や鯨

嘘を築地の御門跡

恐れ入谷の鬼子母神

おっと合点承知之助

その手は桑名の焼蛤

何か用か九日十日

何がなんきん唐茄子かぼちゃ

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文字指導二十年を経て、日本人の心を伝えたい。

幼い時期に本当に質の高いものに触れる事が
五十年後、六十年後になって人生を豊かにしてくれる。

その豊かさは、
子孫へ語り継がれることになるでしょう。

子どもは、大人以上に身体が柔らかく、
感性や感情も豊かで吸収力も旺盛です。

身体感覚が優れているので、
ことばのリズムやテンポも楽しんで喜びます。

この大切な時期を活かしたい。

それが、現役時代の私の想いでした。

この時期に日本の四季折々の歌や、諺、
自然を詠んだ一茶俳句や、蕪村、芭蕉の俳句、
宮沢賢治の詩「雨ニモマケズ」、高村光太郎の「道程」、
萩原朔太郎の「竹」、福沢諭吉の「ひびのおしえ」等を教えると、
子供たちは喜んで、自信をもって遊びの中でも学んだ言葉を発します。

子供達と一緒に暗誦して、
手に取って一筆ずつ福沢諭吉の名文を書いていくうちに、
教師と子どもとの魂が伝わり合い、教化されて行くのを感じました。

暗誦した言葉を、自然と遊びの中で、
発し続ける子どもたちの感性は大人以上のもので、
その素晴らしさには多いに触発されました。

毎日、五歳児に僅か数分間ずつでも繰り返し教えていると、
四歳児や三歳児も、自然に興味が浸透します。

何時の間にか、最高の日本語が、
子供たちの生涯失われない宝として身についてゆく。
そんな過程を目にしました。

生涯に亘って意味を発し続ける日本古来の豊かな文化。

幼少期に身体全体で学んで欲しい。

日本人として、そう願いました。